コミュニティの支援的環境評価モデルの開発:ケア専門職の支援と住民まちづくりの連携

科学研究費補助金・基盤研究(B)(2023年度〜2025年度(予定))

プロジェクト概要

高齢化する郊外住宅地における都市問題を解決し居住環境の質を維持するには、高齢者や障碍者が安心して暮らせるように、子育て世帯の負担が減るように、住民主導でまちづくりに取り組む必要がある。他方、保健師や社会福祉士等ケア専門職が厚労省等の予算を活用して、ケアのための社会・地域資源としてコミュニティカフェや子ども食堂といった住民主導のまちづくりを支援・活用するケースも増えている。医療・介護・子育て等ケア専門職による活動と住民まちづくりを連携して、住宅地の再編や公共空間の質の向上を図るための、コミュニティの支援的環境の評価・改善モデルを、多分野の研究者、行政、ケア専門職、住民とともに実証的に開発する。

研究の全体イメージ

研究の全体イメージ

研究のフィールド

神奈川県鎌倉市(大平山丸山地区),滋賀県近江八幡市、熊本県益城町、千葉県柏市など。

研究計画

研究計画

主な研究内容

① ステアリング会議(隔月)の設置とマネジメント体制の考察

  • 対象地区において,鎌倉市と連携しつつ,地域住民(および専門家+行政担当者)による運営組織を開設し,マネジメント体制整備にむけた条件について関係者間で整理する。
  • 既に,鎌倉市大平山丸山町内会では予備調査を実施し,有志の住民をつのり従来の地区計画策定部会に加えて,1)見守り分科会,2)移動支援分科会,3)多世代交流分科会を組織して,検討を始めている。
  • http://oohirayama-maruyama.jp/

② 地区診断の実施

  • 地区診断は研究開始時点と,住民による地域活動がある程度展開され,ビジョン策定を前にした段階で2回実施する。地区診断では,住民が主体的に地区の居住環境および生活環境インフラの状況とリスク・課題を集団的に自己点検する。
  • 地域診断方法としては,地区診断のために鎌倉市役所と連携し,1)住基ネットデータ,介護保険給付費データ等を利用して健康状態や介護に関する実態調査を実施する。2)居住者のWell-beingやQuality of Lifeについて質問紙調査。3)住民と歩行器や車いすを使っての歩行環境調査,集会場での行動観察,4)フォーカスグループインタビューの手法をもちいて,一人暮らし・夫婦のみ世帯のお困りごと調査,共働き子育てのニーズ調査を実施する。
  • これらの情報を総合的に勘案して,10年後,20年後の自分自身の課題,地域課題と将来目指すべき方向性について議論し,地区診断とする。

③ 住民主体による地域マネジメント活動の実施

  • 上述の町内会に設置した部会とともに,講師を招聘しての勉強会や国内先進地の調査など行いながら,地域マネジメント活動を展開していく。
  • 地域見守り・防災避難支援活動として,防災時の避難や支援方法の検討,平常時の見守り・声掛けなどを実施する。この過程で,介護保険事業者との災害時の支援のあり方,災害時要支援者台帳の共有とプライバシー保護の在り方,認知症高齢者が増えるなかでの住民互助による見守りの限界点などについて明らかにする。
  • 住環境改善活動:家からバス停までの移動手段の充実,車いすや歩行器での地区内のバリアフリーの推進,子育て世帯のための公園から多世代が使える公園の再生,その他,空き家・空き地等のストック活用戦略など,高度経済成長期のコミュニティインフラの課題と解決の方向性について取り組む。その際,どのような法規制があるか,どのような予算をどのように捻出していくか,実現化の道筋について明らかにする。
  • 多世代交流活動:コミュニティカフェ,地域の居場所づくり,子育て支援等をはじめとして,地域住民の社会参加(ひいては介護予防)につながる活動を実施する。住宅用途を主とする郊外住宅地でコミュニティ活動のための空間をどのように確保するか,その運営費をどのように捻出するか,拠点をネットワークする方法を明らかにする。

④ 海外先進事例調査とビジョン作成

  • 少子超高齢社会のモデルとなる郊外住宅地の在り方について,北欧スウェーデン(ウプサラ地区),イギリスの郊外住宅地(例えば,ニュータウン第一世代のハーロウ)など,都市建築だけでなく,介護,公衆衛生,子育て等の分野横断的視点で現地調査をする。
  • 海外事例や国内事例を踏まえ,3)地区診断に基づき焦点をしぼり,住民主体による地域マネジメント活動を展開する。この活動を展開するなかで,自らの実体験に基づき,自らの真のニーズを掘り起こし,断片的なニーズを集めて,10年後・20年後の望ましい暮らしについて考えて,ビジョンを構想していく。

⑤ ビジョンの提示,実現にむけた計画ツールの提案,体制の在り方の提案

  • 住民主体の取り組みと地区診断を繰り返しながら,住民自身が自らのニーズを形象化し,新しい郊外住宅地像を示す。例えば用途混合,空き地の交流空間化,公共交通やバス停の在り方,歩行器や車いすでの散策が楽しめる=トイレやベンチなどを統合し,提示。
  • この活動のなかで,住民主導でできる部分,行政等による公権力や予算の拠出が必要な部分,法改正が望ましい部分を整理する。
  • 研究終了時点において,住民主導によるマネジメントの在り方,住民・企業・行政との役割分担の在り方,行政内の部局間連携・政策統合の在り方を明らかにする。